22歳の終わり。僕は大学卒業を前にして旅に出ました。
人が作り出した世界一の都市ニューヨーク、そして自然が作り出した世界一の造形物グランドキャニオンを目指して。
それはこれから出る社会への不安を前にして、自分らしく生きる道を探す旅でもあったかもしれません。
その旅の途中、一人の忘れられない人と出逢いました。
そして、その出逢いがatelier19の腕時計に繋がっています。
彼はグランドキャニオンへの案内人としてラスベガスで働く日本人の男性。
一流商社に数年勤めるも、このままでは後悔する将来が見えたといい、単身アメリカへ渡った過去を持っていました。
彼が望んだのは、これまでの人生で一番の衝撃を与えてくれたグランドキャニオンに関わる人生を送ること。
そして彼はガイドとして「人」と「グランドキャニオン」を繋げることを仕事とした人でした。
ガイドとはいえ、旅行会社の下請けのさらに下請けのようなポジションで待遇は全く良くない状況だと言います。
日々、日が昇る前の時間にラスベガスで旅行者を拾い、片道450キロの道をその日のうちに往復する。
華やかなラスベガスの灯りを遠くに見つめる郊外の家で、何十万キロも走った車をメンテナンスする生活。
聞いているだけでその過酷さが想像できました。
だけど彼の目、仕草、言葉は、僕が22年間出逢った人の中で最も活き活きと力強かった。
自分の大切にしたいと思った価値観を一生懸命大事に生きる、心に芯の通った人でした。
そんな姿を、当時の自分はものすごく「かっこいい」と心から想いました。
そして、その人が腕に付けていた時計。アメリカに渡って10年以上付けているというもので、アンティークのようなシンプルなものだけれど、経年変化してきた味わいがあり、ベルトの革は渋く、まるでその人自身を表すようなかっこいいモノでした。
人とモノは同じように時間を刻み、重ねるのかもしれない。その時ぼんやりとそんなことを考えたのを覚えています。
彼のように、自分の生きる道を見つけ、それを追い求める人生にしたい。自分の出逢いたかった生き方は、そこにありました。
そして彼との出会いがその後の人生の中で、流されそうになる時、見失いそうになる時の自分自身を繋ぎとめてくれたのは間違いありません。
atelier19の腕時計は、その旅の出会いの時から始まりました。
自分にも心当たりがあるように多くの人は、自分の力で行けそうなところを選んで受験して、誰もが聞いたことのある会社に憧れつつも自分が受かりそうなところを選んで就職して、なんとなく別れないまま付き合ってきた人と結婚して、車を買って家を買って子供が出来て、養うこととローンで手一杯になりながら歳をとる。
それが正解か間違いか。そのほかにどんな正解があるのかどうかはわかりません。
だけど、その決まった流れに流されて、明日はどこへいくかわからないような漂流をするよりも、怖さはあってもやれるかわからなくても、自分で方角を決めて自分の意志で向かっていきたい。
成長したいし、自分らしい人生を歩みたい。
きっとグランドキャニオンに魅せられて生き方を変えたあの人も、人生のどこかでそんな想いを持ったんじゃないかと思います。
そしてそんな生き方を、彼はガイドとして教えてくれた。自分はその想いを、この腕時計に込めて伝えたい。
人と違う道を選ぶことには、その先ずっと迷いや不安が付きまとう。
だけどその試行錯誤の中にこそ、気づきや成長の種はある。
挑戦を重ねれば重ねるほど、人生は味わいを増していく。
そんなメッセージを、この経年変化で味わいを増していく腕時計に込めました。
「二度とない人生を自分らしく生きる」
そんな決意を腕に巻いて、ともに時間を刻んでいく人が一人でもいてくれたら。
それがatelier19の夢です。
atelier19
西村郁弥
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